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シャンシャンシャン…と何処からともなく聞こえる鈴の音。トマスが辺りを見渡すと、遠くの空からこちらへと向かってくる謎の飛行物体が見えた。
「………UFO?」
………いや、そうではなかった。目を細めよく見ると、それは小さなソリを引くトナカイの姿であった。
トマスは不意に昨日出会ったあの小さな女の子を思い出していた。自らをサンタクロースの孫と名乗る、あの小さな女の子の事を…。
シャンシャンシャン。
シャンシャンシャン。
鈴の音と共にそのシルエットは次第にトマスにぐんぐん近付いてくる。まさか、本当に………。
「ちょっ…モンタナ!ストップストップ!!ぶつかるぶつかる!!」
「あぁ!?大丈夫、心配すんな!俺の走りは世界一だぞ!?」
「いやぁぁぁぁぁ!!!お母さぁぁぁぁぁん!!!」
…悲鳴と怒号を撒き散らしながらトマスの目と鼻の先に急停止するソリ。その迫力にトマスは思わずへなへなとその場にへたりこんだ。
「なっ………!?」
「だから言ったじゃねーか、大丈夫だって」
「うっ…気持ち悪っ………」
「なんだなんだ、だらしねぇなぁ。それでもサンタクロースの孫かよ?」
「はぁ、はぁ…死ぬかと思った………モンタナ、後で覚えてろよ…!?」
殺伐とした雰囲気でヨロヨロとソリから降り立つ赤いコートを着た女の子と黒猫。それは昨日トマスが出会ったあの女の子であった。
「お前ら…一体…何者なんだよ。今、空飛んでたよな…?」
「言ったでしょ?イヴはサンタクロースの孫なの。空を飛べるのは当たり前なの」
ポンポン、とコートを手で払うと、イヴは真っ直ぐにトマスと向き合う。
「こんにちは、トマス。今日はクリスマスイヴだよ?だからイヴ、トマスを迎えに来たの」
俺を迎えに…?
「…何言ってるんだよ、お前。俺を迎えにって…それに俺、これからまだ仕事が…」
「大丈夫だよ、トマスの代わりにナイトが働いてくれるから」
ぅえっ!?と黒猫が驚き慌てふためく。
「さぁ行こう、トマス。クリスマスまでもうすぐだよ?」
ぎゅっ、とトマスの手を握ると、イヴはその手を引っ張りソリをへと乗り込んだ。トマスもまた動揺を隠せぬまま、イヴにされるがままにソリに乗り込んだ。
「それじゃあしゅっぱーつ!」
そしてソリはぽつんと道端に黒猫を残したまま、大空へと飛び立つのであった。
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