イヴのおくりもの。

5/11
8人が本棚に入れています
本棚に追加
/44ページ
   自分にとって最高のプレゼント…。  トマスは考えた。  自分が今、一番欲しいものは一体何なのだろう。  自分が今、一番欲しいものは………。 「イヴね、ずっと考えてたの。トマスが一番喜ぶプレゼントは一体何かなって。一晩中考えて、イヴ、ようやく思いついたの。トマスが笑顔になれるプレゼント」  俺が笑顔になれる…。  ビュン、とソリが突如旋回し、徐々に高度を落としていく。チカチカと光る摩天楼が大きくなり始め、次第によく知る風景が近付いてくる。 「さぁ、目的地に到着だよ、トマス」 「目的地って、ここは…」  ………そこは、トマスの母親が入院する病院であった。 「………どういう、事だ?」  トマスは理解が出来なかった。俺にとって最高のプレゼント、それはもしかして母さんに関係してくるっていうのか? 「さぁ行こう、トマス」  イヴはトマスの手を取り、ふわふわと宙に浮かんだソリから病室の窓へと飛び移る。 「ちょ…ちょっと待てよ。母さんは病気なんだぞ?こんな夜中に面会するなんて…」 「大丈夫大丈夫、だって今日はクリスマスイヴなんだから」  答えになっちゃいないだろ、と思いつつ、トマスもまた病室の窓へと飛び移った。真っ暗な病室。ベッドは既には真っ白なカーテンに仕切られ、水を打つような静けさに包まれている。  ここに来るのは一体いつ以来になるのだろうか。思えば、ここ最近この病室にトマスは来ていなかった気がする。  母さんの手術代を稼ぐのに必死で、俺は気が付けば母さんのお見舞いにも久しく来ていなかった。いや…もしかすると、俺は無意識にお見舞いに来るのを避けていたのではないだろうか。  自分がこんな目に遭っているのは母さんのせいだと…無意識に考えていたのではないか。  トマスは不意に胸が締め付けられるような感覚に陥った。自分は一体いつからこんな人間になってしまったのかと…深く後悔していた。  ゆっくりとトマスはそのカーテンの中を覗き込む。そこには病室のベッドで眠る、病床の母親の姿があった。 「母さん………」  呟くようなその声に反応するように、トマスの母親はゆっくりと目を開いた。 「………トマス」 「母さん………!!」  トマスはベッドに駆け寄ると、涙を流しながら母親の手を握った。  
/44ページ

最初のコメントを投稿しよう!