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自分にとって最高のプレゼント…。
トマスは考えた。
自分が今、一番欲しいものは一体何なのだろう。
自分が今、一番欲しいものは………。
「イヴね、ずっと考えてたの。トマスが一番喜ぶプレゼントは一体何かなって。一晩中考えて、イヴ、ようやく思いついたの。トマスが笑顔になれるプレゼント」
俺が笑顔になれる…。
ビュン、とソリが突如旋回し、徐々に高度を落としていく。チカチカと光る摩天楼が大きくなり始め、次第によく知る風景が近付いてくる。
「さぁ、目的地に到着だよ、トマス」
「目的地って、ここは…」
………そこは、トマスの母親が入院する病院であった。
「………どういう、事だ?」
トマスは理解が出来なかった。俺にとって最高のプレゼント、それはもしかして母さんに関係してくるっていうのか?
「さぁ行こう、トマス」
イヴはトマスの手を取り、ふわふわと宙に浮かんだソリから病室の窓へと飛び移る。
「ちょ…ちょっと待てよ。母さんは病気なんだぞ?こんな夜中に面会するなんて…」
「大丈夫大丈夫、だって今日はクリスマスイヴなんだから」
答えになっちゃいないだろ、と思いつつ、トマスもまた病室の窓へと飛び移った。真っ暗な病室。ベッドは既には真っ白なカーテンに仕切られ、水を打つような静けさに包まれている。
ここに来るのは一体いつ以来になるのだろうか。思えば、ここ最近この病室にトマスは来ていなかった気がする。
母さんの手術代を稼ぐのに必死で、俺は気が付けば母さんのお見舞いにも久しく来ていなかった。いや…もしかすると、俺は無意識にお見舞いに来るのを避けていたのではないだろうか。
自分がこんな目に遭っているのは母さんのせいだと…無意識に考えていたのではないか。
トマスは不意に胸が締め付けられるような感覚に陥った。自分は一体いつからこんな人間になってしまったのかと…深く後悔していた。
ゆっくりとトマスはそのカーテンの中を覗き込む。そこには病室のベッドで眠る、病床の母親の姿があった。
「母さん………」
呟くようなその声に反応するように、トマスの母親はゆっくりと目を開いた。
「………トマス」
「母さん………!!」
トマスはベッドに駆け寄ると、涙を流しながら母親の手を握った。
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