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☆ミ
イヴのお祖父さんはサンタクロースである。
十二月二十五日。クリスマスになると、世界中の子供たちにプレゼントを配り歩く仕事をしている。
その仕事に国境は無く、肌の色や生まれや育ちも関係ない。夢を見られる子供ならば、分け隔てなくお祖父さんはプレゼントを配るのだ。
イヴはこの世界に一体どれだけの子供たちがいるのか知らない。きっと両手では数え切れないくらいいるのだろう。イヴはそんなお祖父さんの背中を見ていて、気付けばいつか自分もサンタクロースになりたいと思っていた。
「ほっほっほ、やぁ、イヴ。よく来たの」
にっこりと微笑み快くイヴの訪問を受け入れるお祖父さん。たっぷりと蓄えた口髭は真っ白で、まるで屋根の上に積もった雪のようだとイヴはいつも思っていた。
「こんにちは、お祖父ちゃん。ごめんね、お仕事忙しいのに遊びに来ちゃって」
「いや、構わんよ。イヴが来てくれたらお祖父ちゃんも仕事を頑張れるってもんじゃ」
そう言ってお祖父さんは大きなロッキングチェアから立ち上がった。古い樫の木で出来たその椅子はイヴのそれよりも大きく、イヴが横になってもまだ余裕があるくらいだ。
「お祖父ちゃん、イヴね、朝クッキー焼いたの。一緒に食べよう?」
イヴがフードのついた真っ赤なコートのポケットから小さな袋を取り出すと、お祖父さんはにっこりと微笑んだ。
「そうか、そうか。ありがとう、イヴ。よし、じゃあお祖父ちゃんがとっても美味しいホットチョコレートを淹れてあげようかの」
お祖父さんはそう言ってキッチンのある隣の部屋へと向かった。イヴがソファーに座ると、一緒に着いてきた黒猫のナイトもその隣にちょこんと座る。
「なぁ、イヴ。本当に遊びに来て大丈夫だったのか?サンタの爺さんはこの時期目が回るくらい忙しいんだろ?もう結構いい歳なんだしさ………僕たちのせいでクリスマスに間に合わなかった、なんてのは嫌だよ?」
ご自慢の鍵しっぽをふるふると振るわせながら、ナイトはそんな事を言っていた。イヴも本当はそれが気掛かりだった。お祖父さんは毎年ちゃんとクリスマスになると皆にプレゼントを配る。イヴが生まれてからこの方、配り損ねた事は一度たりともない。
しかし、イヴは考える。いくら今まで一度も失敗した事がないとはいえ、これからも失敗しないとは限らないと。
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