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だが。それも致し方ないことなのかも知れない。このご時世、誰だって、自ら進んで『面倒事』には関わりたくないのだろう。
事実。如何に京の人々が『長州贔屓』とは言えど、『佐幕派』であろうと『尊攘派』であろうと変わりない、同じ『不逞浪士』と言う認識でしかないのだろう。
確かに、威張りくさった『似非志士』も多いが、本気で『国の未来』を憂えている『本物の志士』にとっては、何とも迷惑な話であろう。
ーしかし、今。差し迫った問題は、五、六人の不逞浪士と対峙している、表情を変えぬ綺麗な少女のこと。
依然、逡巡したまま、顔色一つ変えぬ葵を、『怯んでいる』と、勘違いしている馬鹿な不逞浪士達。
そんな中、浪士の一人が葵が刀を抱えていることに気が付いた。
ー鮮やかな蒼い柄糸が巻かれた、金蒔絵と螺鈿細工 が装飾された、豪奢な黒漆塗り拵えの鞘ー
一目でかなり値打ちものの、名のある名刀だと窺える、珍しい拵えのものだったから………。
浪士(四)
「へえ。女の癖に、良い刀持ってんじゃねえか。ついでに、コイツも貰っとくか?」
その浪士の言葉に、葵の柳眉が一瞬だけ『ぴくりっ』とつり上がった。
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