6人が本棚に入れています
本棚に追加
ー文久三年 四月。江戸 下町ー
??
「ふう…………あれから、もう『五年』………。兄上はご無事でいらっしゃるかしら?」
障子を開けて、少女ー紫月 葵(シヅキ アオイ)ーは、空を見上げながら、溜息を吐いた。
部屋の隅の文机の上においてある文。幾度目かわからないほど、読み返した文を、また読み始めた。
『葵へ
変わりないか?俺は今、『壬生浪士組』と言う所で頑張っている。
あんなことがあったのに、傍にいてやらなくて、すまない。
それでも、俺はいつでも葵を思ってる。葵が俺の『たった一人の妹』であることには、変わりないから………。
何かあったら、遠慮なく頼ってほしい。
左之助』
見慣れた兄の字で、文に書かれていたのは、それだけだったけれど………。
文をしまうと、葵はまた、空を仰いだ。優しい兄の面影を心に描いて…………。
春めいた柔らかな風が、葵の頬を撫でていった。
最初のコメントを投稿しよう!