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ー深夜。葵の長屋ー
葵は、夢を見ていた。いつの頃からか、いつも決まって『同じ夢』ばかりを、だ。
初めて見たのも、いつだったか、思い出せないくらいに。『夢の中の時間』は、動くことはなく、いつも同じ場面だった。
夢の中の私は、『怪我』を負っているらしく、右手は動かず、左足を引き摺っている。そして、満足に動けぬ躰を叱咤しながら、必死に『誰か』を探している。
ーでも、それが『誰か』すら、わからないー
名前も・顔も・声も、確かに知っているはずなのに、思い出せないのだ。けれども『助けなければ』と言う『想い』だけで、私はひた走る。
男の怒声、女の悲鳴、子供の泣き声。続けざまに響く『断末魔』の声。
ー月も星もない、闇夜を照らす『一面の真紅』ー
家屋や亡骸を包み込む炎、血溜まりに倒れている人と、飛び散る血飛沫。目の前が真っ赤に染まる。
(早く、速く、疾く………………)
突如、声が聞こえた。頭に直接響くような、『不思議な声』。今までの『夢』には、なかった声だ。
(早く、『目醒めて』…………、『宿命の環』を絶ち切る為に…………だって、貴女は………)
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