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沈黙が続くと、遠くから、
間の抜けた呼びこみの声が
ここまで届いて来る。
わたしはとことこと
足を進め、ベンチの
傍らに立った。
「あの……。昨日は、
すみませんでした」
「…え」
白井さんが
驚いたように顔を向ける。
「助けていただいたのに、
放火魔だって疑ったりして…」
「……ああ」
白井さんはくす、と笑って、
「謝らないでよ。俺の方がよっぽど、
萌ちゃんに酷い事したっていうのに」
「でも…。やっぱり、
それだけは謝らなきゃって
昨日からずっと気になってて…。
本当に、ごめんなさい」
ぺこり、と頭を下げると、
白井さんは黙って、ただ
苦笑いを浮かべた。
わたしはその横顔を
じっと見つめた。
…更科くんと同じ…。
白井さんは、まるで
何か大きなものを
失ってしまったかのような、
空虚な表情をしていた。
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