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そこまで言われたところで、さすがの私も彼が言いたいことが理解できた。
そして心臓の音が少しずつ大きくなっていく。
「貴女が階段を降りた後、必ず彼がやって来る。けれどあの踊場から下に降りることはない。つまり、あなた達は踊場で落ち合っているということです」
「・・・」
「ここに座っていると、見えるんですよ。相手の方も、時々ここを利用されますし。彼は結婚指輪をしている」
知らなかった。この位置から、まさか・・・。
そして愕然とする私に、事務男はトドメを刺す。
「会社の方に、知られたくはないでしょう?」
なんて男なの・・・。
こんな卑怯な手段で私に言うことを聞かせるなんて。
「私を・・・脅すの?」
この男は、この秘密と引き換えに私にどこまでを要求するつもりなの?
食事に行くだけで、秘密を守ってくれるの?
震える両手に力が入らない。手から財布が落ちてしまいそうだ。
「そう思って頂いて結構です」
そう言ったのと同時に完成したボールペンのラッピング。
キレイに包装され、可愛らしいリボンまで掛けられている。
「ひどい・・・」
軽蔑の言葉を投げる私に、事務男はカウンター越しに手を伸ばした。
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