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「何処に行くんですか?」
帰ろうとした私に、事務男が声を掛けた。
まだ、声色は怒っている。
当然だよね。普通なら怒るよね。
わかってたけど、あなたは許してくれるって思ったの。
だって、いつでも優しい笑顔で受け入れてくれたから。
「そのまま少し待ってて下さい。全く、自分のお人よしに嫌気がさします」
黙って立ち止まっている私の横を通り過ぎ、事務男は店のシャッターを乱暴に下ろした。
暫く背中を向けたままだったけれど、「はあ」と一つ大きなため息をついた。
「涙は・・・卑怯です」
そう言うと振り返り、私の頬の涙を拭った。
「私の涙なんか・・・取るに足らないものでしょう?」
少なくとも、修二にとってはどうでも良いものだった。
「大切な人の涙が、取るに足らないもののはずがないでしょう」
強く抱きしめられて、一気に全身から力が抜けた。
「ごめんなさい・・・」
私はそのまま彼に体を委ねる。
「どうして自分を大事にできないんですか?傷つくのは、結局貴女なんですよ」
優しく頭を撫でながら、静かに私を叱った。
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