200人が本棚に入れています
本棚に追加
「ヤダ!行っちゃヤダ真ちゃん!」
追いすがる彼女からかばうように、事務男は私を助手席に乗せた。
こんなことになるなんて思ってなかった。あんなに泣き叫ぶほど彼をすきな女の子が居るのに、都合良く甘えるだけの私が優先されて良いの?
そんなことを考える私の目には、彼の腕にしがみつく彼女と、それを振り払う彼の姿が映っている。
動揺する私をよそに暫くやり取りが続いていたけれど、最終的には諦めてうなだれた彼女を置いて、彼が車に乗った。
「お待たせしてすいません。行きましょう」
そう言うと彼は彼女に一瞥をくれることもなく車を出した。
あの優しい彼が・・・。
何で?
サイドミラーに映る彼女の姿が小さくなって消える。
何も言わずに車を走らせる彼に、私は声をかけるのを躊躇っていた。
私が彼に意見できる立場じゃないことくらいは分かっているけれど、でも、さっきの対応はあんまりだ。
「ちょっと、酷くないですか?彼女、可哀そうです」
幾度めかに引っかかった赤信号で、私は思い切って言った。
「こうなる前に、もう十分に話はしました。僕には、これ以上話すことは無いんです」
「で、でも・・・」
私を許す優しい人柄しか知らない私には、信じられない光景だった。
最初のコメントを投稿しよう!