312人が本棚に入れています
本棚に追加
「あ・・・あの。京香・・・です」
「ああ、うん」
私がどんなに震えた声を出しても、彼の声は不機嫌なままだ。
「い、今、忙しい?」
「うん。まあ、忙しいから帰ったんだけど」
「そ、か・・・ごめん」
「・・・」
次の言葉が見つからない。
言い訳も何も考えないで電話したことを、この時点でようやく後悔した。
「用が無いなら、切るよ」
彼の呆れ声が聞こえた。
「待って!ごめんなさい。ホントごめんなさい!」
嫌だ。このまま電話を切るなんて。
勝手かもしれないけど、『怒ってないよ』って言って欲しい。
次の約束がしたい。
「何に対して謝ってるの?忙しいのに電話して無駄に長くコールしたこと?」
「えっ?」
わかってるくせに、わざと分からないふりで私を責める。
こんなこと、今まで無かったのに。
本当に、本当に怒ってるんだ。
「ち、違うの。それも謝るけど・・・」
私も私で、彼を恋人として紹介しなかったことを、どう謝るべきなのか分からない。
思わず口ごもってしまう。
その沈黙の間を彼がため息と共に埋める。
「じゃあ、他人に紹介できない程、僕の存在を恥ずかしいと思ってたことかな?」
「・・・っ!」
ツー・ツー・ツー
そして、一方的に電話は切られた。
最初のコメントを投稿しよう!