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「ちょっと、電話してくる」
私は早希に告げて人気のないテラスへ向かった。
電話に出てくれるだろうか。
そう思いながらバッグから携帯を取り出した。
不安はあったけれど、迷いは微塵も無かった。
トゥルルルルル・・・
また、あの時みたいに不機嫌な声だったら・・・。
繰り返されるコール音が私を緊張させた。
「はい」
久しぶりに聞く真理さんの声。
心配していた程には、不機嫌そうではなかった。
「あ・・・京香です」
「うん」
私のドキドキを余所に、彼はとても自然な感じだった。
この感じなら、言えるかもしれない。
「真理さん・・・会いたい」
会って、直接伝えたい。
「ああ。今はまだ店なんだ」
「そ、そっか。今日はお店に出てたんだね・・・」
ずっとオバチャンだったし、今夜はパーティーだったから立ち寄らなかった。
タイミングの悪さが、私の不安を煽る。
だけど決めたんだもの。女に二言は無い。
「何度か来てくれたらしいね」
「う・・・うん。会いたくて・・・会いたくて・・・」
みっともなく声が震え出したのが、自分でも分かった。
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