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修二と早希の交際は、瞬く間に会社中に広まった。
独身の男女だから、それはただの社内恋愛であって、もう不倫じゃない。
今さらそれがどうとかこうとか思いはしないけれど、早希が修二の話を嬉しげに語るのを聞くのは多少苦痛ではあった。
そんなある日のことだった。
仕事中、久しぶりに文房具店にお遣いを頼まれた。
後をつけられているのが気のせいだと分かってからは、毎日仕事終わりに立ち寄ることはしていなかった。
真理さんが電話やメールで誘ってくれた日だけ立ち寄って食事に行ったり、そのまま夜を共にしたりしている。
「真理さん」
「あ!京香さん」
「うふふ。お遣い」
約束とかじゃなくて、こうして思いがけず会う機会が出来るのがちょっと嬉しくて、私は少し浮かれていた。
頼まれた物を手に取りながら、この短い時間を楽しむ。
真理さんも、楽しそうに商品の補充をしながら私に話しかける。
何でもないようで、私にとってはくすぐったくて大事な時間だ。
ピンポーン。
入店を知らせるインターフォンが鳴った。
珍しい。他のお客さんが来るなんて。
私はチラリと入口を見た。
「もう、京香ぁ。追加で消しゴム頼もうと思ったけど、携帯デスクに置いて行ったでしょ」
「あ・・・ごめ・・・ん」
やって来たのは早希だった。
「ケイタイは携帯してよね!」なんて、クダラナイことを言いながら入って来た。
突然の部外者の乱入、真理さんも何かを察知して黙っている。
私は何だか居心地が悪くて、とりあえず早く退散しようとしていた。
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