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「とりあえず座ろう」
肩に置いた手を私が退けたせいだろう、真理さんは一瞬私の手を引こうとしたけれど躊躇って拳を握った。
本当は触れられたいのに。
そう思ってしまう自分を制するように、私も拳を握る。
彼の後ろについて店の奥へ進んだ。
落ち着いた深いグリーンの椅子に座ると、店員さんがやってきた。
「ミルクティーで・・・」
本当は、何か飲物を飲む時間なんて要らなかった。
とにかく早くここから立ち去りたい。これ以上一緒に居たら、泣き出してしまいそうだ。
「ごめんなさい。何の連絡もしなくて・・・」
「もういいよ。でも、どういう経緯なのか、説明してもらっていいかな?」
経緯って、そんなの正直に言えるはずがない。
正直に『あの子』の話をしてしまえば、その写真がどんなものだったのかを追及されるだろう。
それに『あの子』は真理さんの大事な人だから、尾行していたのが彼女だと知ったら彼が悲しむことになる。
当然の質問で簡単に予想できたはずなのに、私は答えを用意していなかった。
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