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「ところで、左手はどうしたのですか?包帯が見えるようですが」
「あ・・・今朝、考えごとをしていて、火傷してしまって・・・」
「もしかして、今夜のことを気に病んでいたのですか?」
特に、言うつもりもなかったことだけれど、今夜のことが気がかりでボンヤリしていたことは事実だ。
そして自分と食事に行くことを‘気が進まない’と、もしくは‘嫌だ’と思っていることをちゃんと分かっていた。
「でも大丈夫です。弟がずいぶん大げさに手当てをしただけなので」
私は彼が自分のせいだと気にしないように、明るく言った。
ほんの数時間前なら、『そうよ、あんたのせいよ』なんて言い放ったかもしれない。
だけど今はそんな気も起こらない。
「すいません。守ろうとしたものを、逆に傷つけてしまった」
握ったままの右手に少し力が入れられた。
あまりに悲しげな声をだした彼に、私の心がキューッとなる。
「本当に、大丈夫ですから・・・」
必要以上に私を心配する彼の態度を疑問に感じたけれど、何故だか心は温かくなっていった。
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