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「弟さんに、感謝しなければいけませんね」
今朝の弟の様子を話すと、事務男はようやく笑顔を取り戻した。
「弟と二人暮らしなのですが、最近はすっかり大人になってしまって、どちらが年上なんだか・・・」
私もそれを笑顔で返す。
「京香さんがお姉さんだなんて、弟さんは幸せですね」
先ほどからのお世辞攻撃がくすぐったくて、どうも落ち着かない。
「そ、そんなこと無いです。もっと、ちゃんとした人間じゃなきゃ・・・」
そこまで言って、自分でハッとする。
『私は不倫するような人間で、ちゃんとしてない』
そう言ったのと同じだ。
言葉の続きを見つけられないで黙り込んだ私。
彼だって、こんな言葉には応え辛いに違いない。
自分で情けなくて「あはは」とばつ悪く小声で笑う私。
そんな私の指を事務男は再びなぞり、優しく話題を変えた。
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