第1話

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2 ジョニーは仕事でミスをした。 それも後になって冷静になって考えれば考えるほどなぜあんなミスをしてしまったのかと思うようなミスだった。 ジョニーはそんなミスをしてしまった自分を猛烈に恥じた。 自分などいなくなってしまえばいいと思ったし、人として生きる価値がないように思えた。 また、上司からの罵声が、同僚からの憐れみの視線がより一層その考えに拍車をかけた。 会社を後にして、ジョニーは通勤電車のホームを歩きながら死にたいと思った。 駅のホームで死ぬのであればやはり飛び込みだろう。 あの大きな鉄の塊に飛び込めば人間などひとたまりもないだろう。 一瞬で痛みを感じる事なく死ぬことが出来そうだ。 ジョニーはかすかに微笑んだ。 だが、ジョニーの頭にはすぐに死んだ後のことが浮かんできた。 バラバラに飛び散った自分の死体を回収するために駅員が駆り出され、したくもない仕事をさせてしまうことには多少の申し訳なさを感じた。 また、上手くバラければいいが車輪に挟まるようなことがあれば長い時間電車を止めてしまう。 そうなれば何万人、何百万人の足が止まってしまう。 いやいや、とジョニーは頭を振った。 鉄道でどれだけの人が死んでいるかは知らないが、毎日どこかで1人ぐらいは死んでいるはずだ。 その中の1人に自分がなることにさほど問題はないはずだ。 死んだ後のことまで考えるのはバカバカしいような気もした。 しかし、不安はむくむくと湧き出てきた。 電車を止めてしまった責任はどうなるのだろう? 賠償金などを家族に請求されはしないだろうか? 家族に迷惑をかけるのは気が引けた。 それに、この駅のホームで不運にも現場を目撃してしまった人にトラウマを残しはしないだろうか? またもし一瞬で死ねずに苦しむ事になったら…… ジョニーは大きなカバンを持った男とすれ違った。 混雑した電車のホームで強引に隙間をすり抜けた男の大きなカバンがジョニーの体を線路へ押した。 ジョニーは体のバランスを崩したが、ギリギリの所で持ちこたえ線路に落ちずにすんだ。 その直後に電車がホームに滑りこんできた。 ジョニーは肩を落として満員電車へ乗り込み、家路に着いた。
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