悲劇

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「…あのひととは、うまくいってるのか?」 貴彦はデスクに寄りかかり腕を組む。 「ああ、順調だ」 榊はあまり表情を変えず言葉を継ぐ。 「彼女の離婚は?そういう話は進んでいるのか?」 「いや。それは彼女のタイミングに任せてる。 …旦那の話題は嫌がるから、そういう話はしてないんだ」 貴彦はなんの躊躇もなく答えた。 榊はまっすぐ貴彦を見つめる。 「お前、きちんとしろよ。お前が見えている部分だけがすべてじゃないんだ」 貴彦は、やはり榊は榊らしいな、と思った。 他人を軽んじる態度を取っていても、実は誰よりひとを見ている。 「…そうだな。僕は甘いのかもしれないな」 多くは語らないが、互いの胸の内は理解できた。 榊は立ち上がり、帰ると言うと部屋を出る。 その背中に、貴彦は声を掛ける。 「おい。これから飲みに行かないか」 意外な誘いに榊は内心喜んだものの、それをひた隠し、貴彦を一瞥する。 「…なら、早く来い」 そう言い、先に事務所を出た。 貴彦は、やりかけの書類に目を落とす。 (あとで戻るか) そう決めると、照明を消し戸締まりをして榊を追った。 エレベーターを呼んで待っていた榊と合流し、夜の街へと繰り出した。
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