悲劇

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その夜、貴彦が事務所に戻ったのは深夜11時だった。 榊とは、どうという話をした訳でもなく、ただ長々と飲んでしまった。 わざわざ事務所に戻ったのは、やりかけの仕事を片付けてしまえば、月曜からがスムーズに運ぶと思ってのことだった。 更に明日、小枝との約束がないことが、仕事で気を紛らす口実でもあった。 ── 数時間後、貴彦は仕事を終わらせ、書類を整える。 飲んでいたが時間も経っていて酔ってはいないと、迷った末、車で帰ることにして事務所を出た。 エレベーターで1階に降り、駐車場への扉の施錠を解く。 ビル内は静まり返っており、いつも通り、こんな時刻まで残っているのは自分だけだと思っていた。 車に乗り込むとゆっくり発進させる。 だが、駐車場出口の柵を開けるリモコンが効かず、柵はピクリとも動かない。 (故障か?) 貴彦は、普段うるさいほどのビル管理にしては、との違和感を覚える。 一旦車を降り、周囲を伺う。 エントランスに戻り、エレベーターが止まっているのを確認する。 停電にしては照明が落ちておらず、益々不審さを感じる貴彦。 防犯カメラの前に立ち、両手を大きく振ってみる。 カメラは作動していないようだった。
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