300人が本棚に入れています
本棚に追加
その夜、貴彦が事務所に戻ったのは深夜11時だった。
榊とは、どうという話をした訳でもなく、ただ長々と飲んでしまった。
わざわざ事務所に戻ったのは、やりかけの仕事を片付けてしまえば、月曜からがスムーズに運ぶと思ってのことだった。
更に明日、小枝との約束がないことが、仕事で気を紛らす口実でもあった。
── 数時間後、貴彦は仕事を終わらせ、書類を整える。
飲んでいたが時間も経っていて酔ってはいないと、迷った末、車で帰ることにして事務所を出た。
エレベーターで1階に降り、駐車場への扉の施錠を解く。
ビル内は静まり返っており、いつも通り、こんな時刻まで残っているのは自分だけだと思っていた。
車に乗り込むとゆっくり発進させる。
だが、駐車場出口の柵を開けるリモコンが効かず、柵はピクリとも動かない。
(故障か?)
貴彦は、普段うるさいほどのビル管理にしては、との違和感を覚える。
一旦車を降り、周囲を伺う。
エントランスに戻り、エレベーターが止まっているのを確認する。
停電にしては照明が落ちておらず、益々不審さを感じる貴彦。
防犯カメラの前に立ち、両手を大きく振ってみる。
カメラは作動していないようだった。
最初のコメントを投稿しよう!