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(おかしいな…)
貴彦はビルの外に出てみる。
灯りの点いている階を探してビルを見上げてみる。
だが各階廊下の非常灯の灯りが確認できるだけだった。
再び中に戻り、非常階段への扉の鍵を開け、2階へと上がる。
とりあえず、各フロアを回りそれぞれのオフィスの施錠だけでも確かめようとした。
警備に連絡するのは、不具合を全部把握してから、と考えて。
2階から3階を回り、異常のないことを確かめ4階へと上がる。
(この階には金融業のナントカ商会とやらが入っていたな)
ビルのセキュリティーがうるさいのはこの会社のせいだった、というイメージだけしかなかった。
その、ナントカ商会に近づくと、ドアにはめ込まれた磨り硝子の向こうに微細な灯りが動くのが見えた。
ちらちらと動き回る灯りの動きから、懐中電灯だとすぐに理解する。
同時に、不具合どころか、今まさに犯罪が行われているという認識も。
オフィス内からは、ガッ、ガッという硬いもの同士がぶつかる音が聞こえたのだ。
貴彦は、ドッと腹の底に緊張を感じていた。
(警察、警備…どっちが速いか…)
通報という考えが有りながら、その手はドアの取っ手を握っている。
その瞬間、ドアが勢い良く引かれ、中から覆面の者が飛び出してきた。
どうやら貴彦の姿を磨り硝子越しに見張り役の者が見咎めたらしかった。
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