悲劇

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事件は直ぐに巷に知れ渡る。 実は、貴彦が襲われた場所は、硝子窓が並ぶ南側の廊下だった。 そこは向かいのビルから丸見えの場所で、貴彦にとって幸運だったのは、向かいのオフィスで残業を終えた社員二人が職場で酒盛りをしており、一人の社員が何気なく目にしたのは、まさに彼が最初に襲われた瞬間だった。 すぐさま警察に通報し、その社員たちは、事の一部始終を目に焼き付けようと、窓にへばりついて全てを見ていたのだ。 後にこの二人の証言で、貴彦を倒したのは最初に飛び出してきた見張り役の男で、金槌のようなものを振り上げ、彼の背後から頭部を打ちつけたとわかった。 通報を受けた警察はすぐに出動した。駅前交番に詰めていた4、5人の警官がまず現場に到着し、侵入者は全員その場で取り押さえられた。 貴彦は、発見が早かったことが幸いして命に別状はないものの、頭骨を陥没骨折しており、脳の一部に損傷を受けていた。 そのため、意識は一度も戻らず予断を許さない状態であった。
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