悲劇

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小枝は長女の学校の集まりが土曜にあり、貴彦との約束は日曜にしていた。 いつも通り、貴彦が迎えに来ると思ってはいたが、特に決めておらず、確認のため、夜になってからメールをしてみる。 だが、貴彦にしては珍しく返信がなかった。 少し心配にはなったが、明日はいつも通り出掛けようと思い、その旨をメールで伝えた。 (もしかしたら携帯をどこかに置き忘れたとか…) 希望的観測ではあったが、返信のないわけをそうとしか思い当たらずにいた。 翌日の日曜、駅前ロータリーで1時間以上待った小枝は、その後電車で貴彦のマンションに向かっていた。 胸に迫るような不安を払いのけながら。 午後2時近くにマンションに着き、インターホンを鳴らすが応答がなく、胸騒ぎを覚えた小枝は、貰っていた合い鍵で部屋に上がった。 だが室内に貴彦の姿はなく、トイレやバスルーム、バルコニーまで確認する。 小枝の不安は益々つのる。 (貴彦さん…) 小枝は、漠然とではあるが、なにかが起きたことを悟っていた。 途方に暮れ、ソファーに浅く腰掛けたまま、貴彦に起こり得る様々な事情を思い浮かべてみた。 そして気づくと夕方になっていた。 小枝は、ここで初めて彼の携帯を呼んだ。 きっと彼から連絡があるはずとの思いと悪い知らせを無意識に避けていた。 10回コールして切る。 最早小枝には成す術はなく、その日は自宅に戻ることにした。 帰りの電車に揺られながら、最悪の事態を避けて考えてみる。 思いついたのは実家での不幸だった。 (きっとそうだわ。携帯は電源を切っていて…いいえ、電池切れで…) 希望的観測に変わりはなかったが、可能性が高ければそこに縋りたい心境だった。
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