悲劇

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社長が立ち去った事務所内は誰もが言葉を失っていた。 祥子ともう一人の女性スタッフは涙を浮かべている。 だが、こうしてもいられないと、榊が先陣をきる。 業務は通常通り行う。貴彦のカバーは自分がすると言い、スタッフそれぞれへの指示を手早く行った。 榊は、仕事に一区切りつけると、午後に病院に行くことにした。 貴彦が運ばれた病院は、事務所から車で10分ほどの場所にある。 病院に入り案内に聞くと、身内のもの以外面会謝絶と言われ、家族に会えるよう手配してもらった。 案内されて、病棟の待合室で秋子と会う。初対面ではあったが、互いの関心事の一致のため、心情をストレートに伝え合った。 秋子から、貴彦の容態、未だ意識が戻らず先が見えないことを聞き、榊は茫然自失のまま事務所に戻り、自室のデスクで頭を抱えてしまった。 (どうしてあの日、あいつはここに戻ったんだ。どうしてすぐに警備に連絡しなかった!) 自身に過失はないとは言え、その日一緒に出掛けなければとの後悔の念に沈む。 榊は、貴彦がこのまま逝ってしまうかもしれないという恐怖にもがいていた。 その榊の姿を目にしただけで、事務所のものは全てを理解し涙した。 だがこの時点で、貴彦の容態は山を越えていた。 脳の損傷は軽かったが、そのダメージは実際に目覚めてから分かるとのことだった。 貴彦はしきりにうわ言を繰り返していて、月曜の夕方にははっきりと何を言ってるのかが周りのものにわかった。 貴彦は小枝の名を呼び続けていたのだった。
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