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母は事件のショックと疲労が重なったため、自宅で床についていた。
この病院は付き添いは基本断るのだが、病室が個室であることで大目に見てもらい、日中は秋子が、夜は将一が付いていた。
そして事件から一週間が経ち、治癒は進み、貴彦自身の苦しげな表情も和らいだ。
あとは意識が戻るのを待つだけだった。
この頃、母は気力が戻り、秋子と交代しながら、だが毎日貴彦のもとに通うつもりでいた。
いつ意識が戻るのか、今や遅しと息子の目覚めの瞬間を待つのであった。
この金曜日の夕方、家族三人が揃って貴彦を囲んでいた。
近頃専らその話題に尽きる、貴彦のうわ言の女性のことである。
将一が、
「昨夜も言っていたよ。さえ、さえって」
と話すと、秋子が付け足すように、
「さえごめんとか、済まないって言うこともあるわ。自分の状況が分かるのね」
と言った。
「さえさんって、この子の恋人なのかしらね…」
母はなんとなく腑に落ちるものがあった。
そこで、長男夫婦に話して聞かせたのは、最近の貴彦の変貌ぶりだった。
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