悲劇

22/31
前へ
/334ページ
次へ
「どういうひとなのかしらねぇ…」 母がそう呟いた時、秋子が、あっ!と叫び声をあげた。 夫と義母を驚かし、秋子はアップアップしながら、指で義母のバッグを指差した。 「毎日電話が鳴るって、お母様仰ってましたよね!」 秋子は興奮していた。 「ああ。毎日違う時刻に掛かってきて、4回鳴って切れるの」 将一は合点がいって、あっとひと声あげる。 「母さん、そのひとだよ、きっと。電話は貴彦の彼女だったんだよ」 母は漸く理解した。そしてバッグから、預かってからそのままだったビニール袋を取り出すと、その中から携帯を引っ張り出した。 秋子が引き受けて、着信履歴を開く。 そこには『小枝』という名がズラリと並んでいた。 「やっぱり…」 三人で寄り集まって携帯を覗き込んだあと、揃って貴彦の顔を見つめる。 三人の思いは図らずも同じだった。 恋人の存在はうれしいが、この状態で果たして喜んで良いのだろうかと。
/334ページ

最初のコメントを投稿しよう!

300人が本棚に入れています
本棚に追加