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「…そのひと…このこと知らないんだよね」
将一がポツリと呟くように言った。
秋子が言葉を継ぐ。
「今度電話が掛かってきたら、出た方がいいかしら?」
まだ見ぬ、息子、弟の恋人の心情を思い、三人は再び押し黙ってしまった。
暫くして、秋子が思いつきを口にする。
「そう言えば、榊さんてご存じ?」
義母と夫が頷く。
「一緒に事務所をやってる友達だろう?」
「私もよく知ってるわ」
勢い込んで秋子が告げる。
「お伝えするのを忘れてました。榊さん、月曜日に来られて、その時は回復が見えなくて私も余裕がなくて…。
そんな話をしたら、榊さんお辛そうに帰って行かれたんです。その翌日からは毎日ナースステーションに様子を聞きに来られているそうです。
もしかして、榊さんなら小枝さんを知ってるんじゃないかしら?」
それを聞くと親子は頷き、そうだそうだと同意した。
自分の恋人の変わり果てた姿を目にするなど辛い思いをさせてしまうが、あとは待つだけとなった現状、貴彦の回復に一役買ってもらえたらと藁にも縋る思いだった。
そこで、今度榊が立ち寄った際に家族に知らせてもらえるよう看護師に頼み、母と秋子は帰って行った。
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