悲劇

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秋子は身を乗り出し、携帯をテーブルに置くと言った。 「貴彦さんの携帯です。これで連絡できます」 秋子は真剣な面持ちで申し出る。 「次に掛かってきたら出ようかと思ったのですが、私たちより面識のある榊さんにお願いした方がいいかと…」 それを聞くと、榊は躊躇なく携帯を取り上げる。 「それなら、善は急げで」 榊は、着信履歴を開き発信する。 * 小枝は、毎日電話を掛け続けてはきたが、掛けるたび、誰も出ない電話に神経をすり減らしていた。 この時も不安を押し退けるのに、かなり長い時間、携帯を見つめていた。 その時、突然携帯が鳴り出した。着信は貴彦と告げている。 小枝は、期待と不安を織り交ぜ電話に出る。 「もしもし、貴彦さん?あ…あなた、大丈夫なの?」 小枝は泣き出してしまったようだが、必死に堪えているのが電話の向こうでもよく分かった。 榊は、早くもこの役を引き受けたことを後悔していた。 「小枝さん…榊です」 「えっ?榊さん?あの…どうして?どうして榊さんが貴彦さんの携帯を?」 小枝は不安が的中したものと悟り、言葉の終わりは悲鳴に近い声を上げていた。
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