悲劇

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急いで身支度をし、小枝が自転車で駅に着いたのは、榊の電話から30分も経っていなかった。 子ども達へは、夕食用にと非常食のレトルトカレーを三つテーブルに置き、友人が入院したので病院に行くと書き置きしていた。 N市駅に着いた。駅コンコースからそのままデッキに出る。 市立病院はバスで十数分だ。 病院行きのバスは既に地上のロータリーに着いており、小枝は乗り場まで駆け出そうとしたところで、後ろから呼び止められる。 振り返ると、榊が駆け寄ってきて小枝の腕を取ると、バス乗り場へ引っ張って行った。 「ちょうど良かった。今、事務所に一旦戻ったところでね」 乗り場までの階段を榊に腕を取られながら駆け下りる小枝。 「榊さん、一緒に行ってくださるの?」 榊は小枝の腕を離し、無礼を謝ってから、「当然だよ」と笑顔で答える。 小枝は、こんな状況でありながら、榊の優しさがこの上なくうれしいと感じるのだった。 バスにはギリギリ間に合った。 席は幾つか空いていたが、二人とも座らず並んで吊革に掴まる。 病院に着き、榊の案内で病室へ向かう。 道々、榊から事件の概要と貴彦の容態を聞いた。 小枝は幾分か青ざめていたものの、特に取り乱すようなこともなく、冷静に話を聞いていた。
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