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特別室へ小枝を先導してきた榊が、病室の扉をノックすると、間もなく引き戸が開けられた。
小枝は、自分と同年代と見た秋子を見つめる。
秋子は小枝を見るなり、「あぁ」と言ったきり、両手で口を覆う。その目は潤んでいた。
小枝は、病室の中ほどに佇みこちらを見ている初老の女性を貴彦の母と気がついた。
秋子に目礼したあと、貴彦の母へ深々と頭を下げ、長すぎるほどのお辞儀をする。
秋子に促され、小枝は病室に入ると、
「このひとが小枝さん。広沢小枝さんです」
と、榊が二人に紹介した。
すると、貴彦の母がホッとしたような笑みを浮かべる。
「貴彦の母です。こっちは長男の将一の連れ合いで秋子と…小枝さん、来てくださってありがとう」
貴彦の母は、半ば衝動的に小枝に近づくとそっと小枝を抱きしめた。
互いに言葉はなかったが、胸の内は理解し合っていた。
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