300人が本棚に入れています
本棚に追加
/334ページ
榊は話を続ける。思いは複雑だったが。
「…程なく、親父さんに説得されて戻ったお袋さんだが、長男も連れて行ったせいだとわかっていたそうだよ。
親父さんのその後のやつへの無関心さに変わりがなかったらしいからね。
で、決定的瞬間が5歳の時。お袋さん、堪忍袋の緒が切れて親父さんに詰め寄ったところ、はっきりと息子は一人でいいと言い放った言葉を本人が聞いた。
そのせいで父親を恨むようになったんだ」
「かわいそうに…」
一瞬、二人は胸が詰まり、息苦しささえ感じていた。
改めて、子どもの貴彦の、心の痛みを思う榊。
静かな口調に変わり、榊は話を続ける。
「お袋さんは諦めて、傷つけるぐらいならと、父親からできるだけ遠ざけて次男を育てることにした。自分の実家に相談して、任せることにしたんだ。
まあ、そのことをあいつ自身はどう思っていたか…実際、お袋さんにも見放されたと感じたかも知れないよな」
ああ、そうなのか…と小枝は貴彦の傷を理解しつつも、その悲しみはなおも深いと感じるのだった。
最初のコメントを投稿しよう!