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貴彦は、幸い祖父母に愛情を注がれ表面的には穏やかに育つが、父親との確執は年を重ねる毎に深まった。
中学三年の時、父と激しく言い合いになった貴彦は、高校入学を機に家を出る。
それは親子の縁を切るほどの勢いだった。
その後、本人の強い要望で祖父母の養子となる。
高校時代にその祖父母を相次いで亡くし、家屋敷と道場を相続した…。
結局のところ貴彦の父への反発は、そのまま愛情への渇望なのだが、本人は気づいてはないとの見解を示し、榊は一旦話を切る。
少しの沈黙の後、小枝は尋ねる。
「お祖父様たちを亡くした時の彼はどんな様子だったの?」
「そうだな…学校は葬式当日以外は休まなかったし、部活も稽古もやっていたが…結構我慢していたんじゃないかな。
哀しいときに素直に泣けないやつなんだよ」
「そう…」
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