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榊は、大学時代の話題から貴彦の女性関係を思い出していた。
「聞いたことある?学生の頃、何人かとつき合っていたこと」
「長続きしなかったそうね」
「うん。長続きどころか一日しか持たなかったこともあったな」
「まだ女性に暴言を?」
「いや、さすがに大人にはなったよ。多少、分別のある言動を心掛けてはいたようだ。
ただね、人間不信からだろうけど、誰といても楽しそうではなかったようで、女性も一緒にいても辛いんだろうね」
小枝は吐息を漏らし、目を閉じる。
「私の知る貴彦さんとは違うひとの話みたい」
堪らず榊は尋ねる。
「…三井は、優しい?」
聞かなくても答えはわかっていた。
小枝は少しはにかみ、そして答える。
「ええ、とっても」
「…最初に出会った時から?」
「えぇ」
そうか、と榊はそっと息をついた。
「…それなら、きっとあいつの一目惚れかな。人生初の。ひょっとして初恋かもね」
小枝は眩しそうに榊を見つめる。
(初恋…)
小枝は俯いて言葉を無くす。嬉しさなどなかった。榊の何気ないひと言は、悲しく胸を打った。
(それが本当なら、なんという人生だろう。私は彼の人生に足りなかった愛情を一気に注がれているのかもしれない…)
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