300人が本棚に入れています
本棚に追加
/334ページ
榊は、お茶を持ってくると言い、待合室を出た。胸の内では、炎が燃え盛るように、小枝への賛辞が愛と欲望に変わっていく。
(彼女が欲しい。三井から奪いたい。なぜ、こんなにも通い合う相手を諦めなければならないのか。もし俺が先に彼女と出会ってさえいたら…)
どうしようもないと分かっていながらも、榊は、小枝への愛が増幅していくのを止められなかった。
榊が待合室に戻った時、秋子が小枝に、事件直後の我が家の混乱いかばかりと話しており、小枝はそれを悲痛な面持ちで聞き入っていた。
程なく看護師がやってきて、間もなく検査が終わることを告げる。
一同はホッとして貴彦の様子を尋ねると、看護師は微笑み、元気ですよと答える。
そして、あ、そうだと思い出して付け加える。
「お母様方に、彼女にあれこれ質問するな、ですって」
クスッと笑って看護師は立ち去った。
小枝は榊と顔を見合わせ苦笑し、母達は肩をすくめて小さく笑った。
最初のコメントを投稿しよう!