明かされた真実

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そこへドタドタと足音を立ててやってきたのが、貴彦の兄将一だった。 「やぁ、榊君、今回はいろいろ世話になった…」 榊に近寄りながら声を掛ける将一は、傍らの小枝に気がつくと、抱きしめんばかりに感動を露わにする。 「あなたが小枝さんですね。あぁ…ありがとう、本当にありがとう」 豪快な性格らしく、将一は溢れる感情のまま目を赤くして頭を何度も下げる。 小枝は謙遜し小さく首を振りながらも、どこか貴彦の面影がある将一に親近感を抱くのだった。 ちょうどその時、貴彦の病室辺りに賑わいが聞こえ、目を向けると数人の看護師と担当医が病室に入っていくところだった。 家族の三人がそこへ駆け寄り、小枝と榊は待合室に残る。 小枝は無意識に、榊の肘を掴んでいた。 二人は動静を見守り佇んでいたが、すぐ病室の入口から秋子が笑顔で手招きし、二人は病室に向かった。 小枝たちと医師たちが入れ替わりに病室に入ると、カーテンは開放されており、ベッド上の貴彦の姿がすぐに目に飛び込んだ。 小枝は飛びつきたい衝動を抑え、ゆっくり貴彦のそばに行き、差し出された手を握る。 言葉はいらなかった。 互いの感情は手に取るように理解できていた。 今日、貴彦の突然の知らせから回復までの数時間の間、小枝は彼を失う恐怖と戦っていた。 これが天から下された罰なのかと、自分を責める気持ちも興った。 罪の代償はあまりに大き過ぎ、小枝は思考を停止しなければ、病院までたどり着けなかっただろう。 互いに優しく見つめ合う二人を眺めて、微笑む家族たち。 それを端で見つめる榊は、居たたまれない気持ちでいた。
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