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「お医者さんはなんて?」
小枝は貴彦を見つめたまま尋ねる。
「大丈夫だって」
貴彦が答えると、将一が口を挟む。
「脳の損傷は奇跡的に小さくて、機能的な問題は認められなかったそうだよ。安心して」
「そうですか。良かった」
小枝は母を振り返り、良かったですねと微笑みかけた。
すると、
「明日にでも退院するよ」
との貴彦の無謀過ぎる意向に、皆が口々に反対を唱えて、室内は一瞬ざわめいた。
「先生には伝えたよ。いい顔はしなかったが、だめとも言われなかった。明日退院する」
ここで榊が釘を刺す。
「お前、一週間も寝ていたら自分の身体がどうなっているのか分かるだろう。
医者は無理だと分かっていて、わざと答えなかったんだろ。
明日から暫くはリハビリに務めてさ、退院はそれから考えろ」
そうだそうだと皆も頷く。
貴彦は仕方なく受け入れた。
確かに、思うように身体を動かすことができなかった。筋力がかなり衰えていると、ここは認めざるを得なかった。
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