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「じゃあそろそろ俺は行くよ。お邪魔虫は消えるのみ。
小枝さん、それじゃね」
榊は二人に背を向けると片手を挙げて部屋を出て行った。
小枝は榊を追い、病室の入口から、榊が廊下を曲がり見えなくなるまで見送った。
貴彦が小枝を呼び、側に来るよう促すと、彼女は飛ぶようにベッドに寄り、貴彦を優しく抱擁する。
「会いたかった…ずっと、こうしたかった…」
貴彦は小枝の髪にキスをして、匂いを胸に深く吸い込む。
「…聞いたよ。一週間も連絡が取れなくて、不安な思いをさせたね。
小枝、すまなかったね。僕は無鉄砲の馬鹿者だと言われたよ」
抱きついたまま小枝は首を振る。
「榊さんから事件のことは聞いたわ。背筋が凍った。
もう、あんな無茶はしないでね」
貴彦は小枝の背中に回した腕に力を込める。
「うん、約束するよ。これからは、うんと臆病に徹する」
乗せていた上半身を起こしながら、小枝は、ふうっとため息をついて見せる。
「お願いね…すごく怖かった。あんな思いは二度としたくない」
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