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榊の車に着き、小枝は促されて助手席に座る。
榊は運転席につくと、
「それで、家はどこ?」
と聞いた。
小枝は少し笑って、やっぱり送れないって言うかも、とふざけてみる。
「北町のつつじヶ丘よ。ご存じ?」
榊は指を顎に添えて考える。
「聞いたことはあるな…ああ、もしかして裁判所が近くにある?」
小枝は、貴彦と出会った日に同じやり取りを交わしたことを思い出し、笑みをもらす。
「ええ、そう。榊さん、ここから北町往復だと2時間はかかるわ。N市駅までで大丈夫よ」
榊は手早く車を発進させると、「いいからいいから」と彼女に言い、「今の時間帯だとこっちか」と呟き、いつも貴彦が小枝を送るときのルートを選んだようだと、小枝にも分かった。
「良かったら休んでいてもいいからね」
その言葉を聞いた途端、小枝はつい吹き出してしまう。
急に笑い出した小枝に、榊は驚いて彼女の方に二度三度目をやる。
小枝は笑いを収め、目尻を拭う。
「本当ごめんなさい。笑うつもりはなかったんだけど」
と謝った。訳が解らなくても、榊はなんだか楽しくなってきた。
「僕が、なにかおかしいことを言ったみたいだね?」
「そうじゃないの。私が勝手におかしくしただけ。
…あのね、今日、榊さん、彼と自分が似たもの同士だと言ったでしょう?」
榊はうんと返事をした。
小枝はクスクス笑いながら続ける。
「私と一緒にいる時の貴彦さんと榊さん、同じシチュエーションで同じことを言ったの。
本当に二人は似たもの同士なんだなって思っていたら、また同じような言葉を聞いて…つい、笑ってしまったの。
不作法でごめんなさいね」
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