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榊は、やっぱりこのひとはいいなと率直に思う。
だが、貴彦にはともかく、小枝自身に自分の気持ちを悟られたらお終いだと、益々感じていた。
「君ってひとは…おっと、なにか言ったらまた三井の二番煎じになるかな」
(それはきっと、抱えている思いが同じだからさ…)
「嬉しい?それとも、嫌だった?」
苦笑いの榊に、小枝は無邪気に問い掛ける。
「それは微妙だね。嬉しいわけはない。
だけど楽しいな、小枝さんといると。不作法だなんて思わないから、なんでも言ってよ」
小枝は小枝で、あのままひとりで電車で帰っていたらと考えていた。
貴彦の側にいたかった。彼にずっと触れていたかった…。
その思いを振り切って、彼の元を離れたことがつらく、切なかった。
小枝は今、榊に救われた思いでいたのだった。
榊と笑い合って、思い切り感情を吐き出したい気分を吹き飛ばした。
共感著しい二人の車内は、楽しさに溢れていた。
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