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走り出してから小一時間が経ち、車が地元近くまで来ていた。
小枝は駅に自転車を置いてきたことを思い出し、榊に告げる。
駅前で車を降りる時、小枝は榊に礼を言うと、榊は何でもないと受け流す。
小枝は気持ちの補足をする。
「榊さん、あなたが感じているよりずっと、私は榊さんに感謝しているの。どうかそれはわかってね」
榊は小枝のこの言葉に感動していた。
(俺はただこのひとの側にいたいだけだが、このひとは俺の本心を知らず無邪気に頼ってくれた。
もし、俺の気持ちを少しでも漏らせば、このひとはこんなに信頼を示すことはないだろう。
このままでいい。このまま、友達の恋人のまま…)
小枝は榊と別れ、自転車で自宅に戻る。時刻は10時半を回っていた。
子ども達は食事を済ませ、下の二人は入浴も済ませていた。
子ども達から、入院したのは誰かと聞かれ、『友達』と答えてなんとかごまかしたが、胸は痛んだ。
明日も様子を見に行きたいから、今日と同様になるかもと、念のための根回しをするが、レトルトカレーはもう嫌だと言われた。
心身ともに疲労は限界。怒涛の半日だった。
小枝は、身体がつらくなってきたので早めに休むことにした。
必要最小限の片付けをして入浴し、すぐ床につく。
(あの子たちに話さなきゃ…もう、嘘を重ねるのは辛い。
その前に…夫と話そう。結果を怖れず、とにかく貴彦さんのためにも気持ちを示す努力はしよう。
もう、このままにしていてはいけない…)
布団の中で、そんなことを考えているうち、早々に眠りに落ちていく小枝だった。
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