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「…で?見回した時には凶器を持つ者はいなかったのですね?」
小枝の心臓がドキッとなった。
貴彦は静かに答える。
「ええ、全員素手でした」
「その直後、後ろから殴られた?」
貴彦は充分考えてから答える。
「…いえ。あの時は…後ろから身体を抱え込まれ、両腕の自由が効かなかった。
それで、そいつのスネに蹴りを入れて怯んだところへ顎に一発…。
その時、別の奴に背中を打たれたので、見当で後ろ蹴りしたところそいつの腹に命中したんです。
でも、記憶はここまでで…」
聞こえてくる事件の詳細に、小枝は耳を塞ぎたい衝動に駆られていた。
なるほど、と聞き役の警察官より年輩者の警察官がここで話を切った。
「ありがとうございました。調書は以上です」
記録を取っていたもう一人の警察官が書類をしまい始める。
年輩警察官が続けて、
「被疑者と目撃者の証言と照らしますが、まぁ大丈夫でしょう」
と一応の感じで貴彦に告げ、更に話を続ける。
「それと、あなたを襲った凶器はハンマーでした。下手人は予めズボンのベルトに差し込んでいたようです。
あなたがあまりに強いので、怖くなってやってしまったと供述しています」
それを聞くと、貴彦は神妙になった。
「…そうですか。もし僕が抵抗しなければ、大事には至らなかったということですね」
年輩警察官は、少しばかり表情を和らげて貴彦に応える。
「あの状況で、多少腕に覚えがあれば、挑んでも仕方なかったかもしれませんね。
それにあなたは責任者でもあったし、その行動を否定するつもりはありません。
が、今後は何かあれば、すぐに警備か警察に通報することをお勧めしますよ」
尤もな台詞で締めくくり、三人の警察官は、ご苦労様でしたとの小枝の言葉に送られ病室を後にした。
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