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「え?それって毎日来てくれるってこと?なにかのご褒美なのかな?」
貴彦の無邪気な問い掛けに、小枝は済まなそうに眉を下げる。
「毎日は無理だけど、出来るだけ来るわね。実のところ、私がそうしたいの」
貴彦はベッドのリクライニングの背をやや起こしていて、小枝は彼の顔の近くで椅子に座っていた。
貴彦は改まった口調で、小枝に告げる。
「小枝、いつも一緒にいたい。こんな事になって、人生が如何に儚いものかを思い知ったよ。
だから、今までより頻繁に君に会えるなんてすごくうれしい」
小枝は貴彦をしっかり見つめて、ゆっくり口を開く。
「…あなたを失いかけて分かったの。会いたい気持ちに蓋をして暮らすことの無意味さを。
…夫に離婚を切り出すわ」
貴彦は驚いて小枝の顔を見つめ返す。
彼女の表情は穏やかだった。
貴彦は言葉を失いながら、胸には感動が湧き上がるのを感じていた。
(このひとは、やはり考えてくれていた…きっとたくさん苦しんだだろう…)
貴彦は、言葉を忘れたまま小枝の肩を引き寄せ抱きしめるのだった。
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