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貴彦はふと、小枝の頬に触れる。
柔らかな感触は、出会ったその日の感動のままではあったが、ひと回りも小さくなった様にも見えるのだった。
「昨日は一日大変な思いをさせたのに、連日になって済まないね。
会いたい気持ちとは別に、君の身体が心配だよ。無理はさせたくないな」
小枝は小さく微笑み、大丈夫よと請け負った。
怪我人に返って心配させては良くないと、よくよく体調には気をつけようと自らに言い聞かせながら。
「もう少し太れたらいいのにな...」
貴彦の何気ない呟きに、小枝はハタと彼を見つめ返し、
「ふくよかな女性がお好みだったのかな?」
と、少しふざけてみた。
貴彦は慌てて、違う違うと否定する。
「君はもう少し太った方が抵抗力がついて丈夫になれるんじゃないかと思ったんだ」
小枝は楽しそうに笑って答える。
「丈夫にはなりたいけど、女心としては複雑だわ」
体質的に無理があるとは言えなかった。貴彦の、その気持ちがうれしくて。
「僕が太らせる」
貴彦はその気満々で言った。
恐らく、家事や子ども達のことだけで精一杯だった小枝の生活に、自分との時間を作らせ、更に様々な心労を重ねさせてしまったと貴彦はわかっていた。
近い将来一緒になれたなら、小枝を見るからに幸せにしてあげたいと、心から思っていたのだった。
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