明かされた真実

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リハビリは、専門家の指示のもと、いろいろ試しながら進めていったが、貴彦の身体能力は通常の成人男性レベルまで既に回復しており、結論としては訓練の必要性は認められなかった。 「だから言ったろ。明日の退院は決まりだな」 貴彦は明朗快活に宣った。 一応、午後に医師の診察を受けて退院許可をとの看護師の説明というか、懇願を聞くことにする。 小枝は内心やれやれと呆れていた。 病室に戻ると、母と秋子が来ていた。 母は、忘れないうちにと、挨拶もそこそこにバッグから貴彦の私物の入ったビニール袋を取り出し、彼に渡す。 小枝と二人は、ソファーに座り、秋子が持ってきたお茶を頂きながら、リハビリの様子を話すと、 「身体だけは丈夫だから」と母に言わしめた。 貴彦は、母と義姉と屈託なく話す小枝をベッドから眺めていると、家族としての当たり前の温かさを感じられる自分に、内心驚いていた。 母は、明日の退院が確定なら自分たちはもう来ないが、明日は一人で大丈夫かと息子に確認する。 「もちろん大丈夫さ。タクシー呼んで、door to doorだよ」 だから早く帰れと言い放つと、小枝に窘められた。 だが、話しの折り合いをみて、母たちは暇を告げる。 去り際に、 「夕方の診察の頃に将一が来ますよ」 と、置き土産のように母が告げると、ああそうかい、と軽く受け流す貴彦の脇腹を小枝が横から突っつき、秋子がぷっと吹き出した。 母は小枝に向き合い、真剣な眼差しで口を開く。 「小枝さん、今回のことは私たちにとって大変な体験でしたけれど、それを乗り越えた今、二人を見ているととても幸せなんです。 この子はあなたの手を焼かせてしまうと思うけれど、どうかよろしくお願いしますね」 そう言うと、小枝に頭を下げるのだった。 その後病室を出ていった二人。 小枝はドアの外に出て、立ち去るふたりの後ろ姿に向かって頭を下げ見送るのだった。
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