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小枝から知らされると、将一は、じゃあ少し待つかと言い、下の階にある患者家族用のラウンジに彼女を誘った。
ラウンジと言っても、飲み物の自販機が2機とコーヒーと紅茶の専用機、それに無料の給茶機、雑誌・新聞・書籍コーナーのある、椅子だらけの大部屋だった。
日曜日の面会時間帯ということもあり、割合混んでいた。
将一が給茶機から緑茶を注いでくれ、二人は長椅子に並んで座る。
「ねぇ、小枝さん。秋子から話は伝え聞いてはいるけれど、貴彦との出会いは偶然だったそうだね」
貴彦の実の兄が、実際幾つ年上なのかは知らなかったが、小枝は、自分とそう変わらない年令だろうと感じていた。
「ええ、そうです」
ラウンジまでの道道、貴彦の話題を朗らかにしていたが、腰を落ち着けると徐ろに静かな口調で話し出した将一。
小枝はほんの少し緊張していた。
「そうか。それなら...うん、まぁ...言いたかったことはあまり良いことではなかったが、そういうことなら心配ないだろう。
貴彦から聞いているだろうけど、うちはちょっと、特殊なのでね。変な猜疑心があったものだから」
小枝は、将一がなんの話をしているのかわからずにいた。
「あの...なんのことでしょう?仰る意味がわからないのですが...」
この、小枝の率直な疑問が、隠れていた事実をいきなり露呈させる。
将一は一瞬の躊躇を見せていたが、まぁいいかと、話を続ける。
「これは小枝さんを信頼して話すのですが、貴彦が敢えてあなたに話さなかったことにはちゃんとした理由があるのだと、理解して聞いてほしい」
小枝は、わかりましたと答える。
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