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小枝は、将一の話した言葉を咀嚼する努力を諦めていた。
「貴彦さんのこと…どんな事情があったとしても、私の気持ちは変わりません。
なにか隠し事があるのはわかっていましたから、いつかそれが明らかになっても、私が変わることはないと思っていました」
そう言いながらも、胸の中に渦巻くのは別の感情だった。
小枝は泣きたくなった。
将一が声を掛ける。
「それなら大丈夫だね?」
将一は、小枝の心の中を伺うかのように、じっとその瞳を見つめる。
小枝は踏ん張り、将一を見つめ返す。
「はい、大丈夫です」
最早本心からの答えではないとの自覚があった。
(もう、折れそう…)
将一は、一抹の不安は拭えないものの、これ以上のことは言えなかった。
そこへ看護師がやってきて、小枝の虚勢はぎりぎり保たれた。
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