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看護師は、診察が終わったので彼女に戻るようにと貴彦からの伝言を伝えに来た。
将一の姿に気がついた看護師は、担当医と話すかと尋ねる。
将一は、後で行くと答えた。
看護師が去ると、小枝に向き直る将一。
「小枝さん、あなたが知ったと、貴彦に話すんだよ?」
将一の言葉に、小枝は少し間を置き、はっきりとした口調で答える。
「暫くは、まだ知らないことにしてください。
…少し考えたいので…」
将一は内心やはり…と、心が痛んだ。
「小枝さん。あなたを失いたくないのは貴彦だけではないんだ。
僕も、母たちもだ。それはわかってくれるね?」
小枝は、愛だけでは済まない事情が自分だけでなく、貴彦の側にも起きたことに憤りさえ感じていた。
「…はい」
と、力なく答えると立ち上がり、お辞儀をしてその場を立ち去った。
早足に病室まで戻ると、気持ちを落ち着け、頭の中をほとんど空っぽにして病室に入る。
貴彦はソファーに座っていて、小枝に手招きをする。
「お兄さんがいらしてるわ」
小枝は殊更に明るい声で言った。
貴彦は、小枝の手を掴み引き寄せ、自分の横に座らせると、いきなりキスをしてきた。
そして小枝の瞳を見つめながらゆっくり顔を離すと、両手で頬を挟み真顔で彼女に尋ねる。
「兄貴と何を話していたの?」
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