明かされた真実

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小枝は、貴彦がいろいろと気を回してくれるのが嬉しかった。 だが、もう限界だった。 胸の中のものが、まるで間欠泉が噴き上がるほんの数秒前の状態のよう。 感情が渦を巻き限界まで膨張し、今にも噴き出しそうだったのだ。 「...今夜はしっかり休むから、きっと大丈夫よ...ありがとう...それじゃ」 小枝はくるりと背中を向け、バッグを掴むと病室を出た。 小枝の背中を愛おしく見つめ、お休み、と告げるしかない貴彦だった。 こうやって、会う度に辛い別れをすることが、その度に何度も心を傷つけていく。 貴彦は、この辛さに耐えるために常に言い聞かせていた。自分より小枝の方が辛いのだと。 病室を出た小枝は、小走りにエレベーターまで辿り着くと、ボタンを押した指をそのままに、壁に両手を突っ張って息を整える。 (まだだめ。吐き出したら止まらなくなる...) エレベーターの乗り込むと、途端に頬をぼうだの涙が流れ落ち、固く結ばれた唇は小刻みに震えた。 1階フロアに着いて扉が開いたその先に、こちらに歩いてくる榊が見えた。 小枝は、一瞬幻かと思った。 だが、小枝を見つけ笑顔だった榊の表情が、みるみる真顔になる。 小枝は、自分の方へ急ぎ足で近づく榊を認めると、抑えられていた感情が一気に溢れ出した。 その感情の迸りを止める気力は、もう小枝に残されてはいなかった。 エレベーターの前で態勢を崩しかけた小枝に今一番必要なのは、すべての事情を知りながら何も聞かずに受け止めてくれる者だった。 人気のない受付ロビーで、榊は小枝を抱き留め、その肩を抱える。 「お願い...今すぐここから連れ出して...」 小枝は込み上げる嗚咽と戦いながら精一杯にそう言うと、両手で顔を覆い声を上げて泣いた。 榊は、無言で万事承知とばかりに、拐うように小枝の身体を支えながら歩き出した。
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