300人が本棚に入れています
本棚に追加
/334ページ
「小枝さん、まさか、さ...あいつのこと諦めるの?」
「わからない...話を聞いてすぐ頭に浮かんだのは、あのひととは続かないんじゃないかって...。
私ね、彼の体が良くなったら、夫との離婚協議に入ろうと考えてたの。彼にも伝えていたのよ」
榊の胸に、ズキンと痛みが走る。
「そうだったのか...」
(もうそこまで話が進んでいたのか)
「それなのに、私が勝手にそう思い込んでいるのかもしれないけど...あのひとを失う日が必ず来るって。
子ども達から父親を奪ってしまったあとにね」
小枝は再び涙を流す。
「私...母親として、冒険とか...賭けはできない...」
小枝はハンカチを鼻にあて、今度は静かに震えて泣いた。
榊は小枝の髪に手を伸ばしかけたが、それを収め、小さく嘆息した。
「君の気持ちは分かるが、早まってはだめだ。君たちは一緒になるために出会ったはずだろ?
とにかく、三井とちゃんと話すんだ。いいね?」
小枝は返事をせず、目を伏せ考え込む。
「小枝さん」
「怖いの。私、彼には聞けない。
と言うより、私には無理だって、彼に言えない」
最初のコメントを投稿しよう!