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翌日小枝は、全てを榊に託し、貴彦への連絡を断ちひとり自室に籠り考え込んでいた。
小枝の心は唯々諦めの境地にあり、昨夜は涙も出なかった。
一方、貴彦は、朝から退院の準備を整え、会計窓口の開く9時少し前に病室を出る。
途中、ナースステーションに立ち寄り、昨日の菓子折りの残りを置いてきた。
自宅マンションまでタクシーで十数分。マンションの部屋に足を踏み込む貴彦の心は晴れやかだった。
この日の午前中か遅くても昼頃までには小枝が来てくれ、その後はゆっくり愛し合えると思っていた。
(小枝...昨日は少し疲れていたようだったが、きっと来てくれるだろう)
ふと思い出し、荷物から携帯を取り出す。電池切れで、入院中から既に電源が入らなかった。
帰宅したら直ぐに充電するつもりだったのだ。
小枝から連絡があるかもしれないとも考えていた。
充電しながら電源を入れる。
メールと電話の着信が十数件あったが、殆どが小枝からで、貴彦の怪我を知る前に毎日掛け続けた履歴が、貴彦には切なかった。
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