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ふと、顔をあげ、榊を見つめる貴彦。
(まさか…)
「…それで?どうしてお前なんだ?
榊お前は、小枝と連絡を取り合っているのか?」
貴彦の中で、生まれて初めて嫉妬の感情が沸き上がる。厳しい顔つきで榊を見つめた。
榊は立ち上がり、カウンターの席に座ると、貴彦に対峙した。
「…冷静になれよ。馬鹿な妄想をしている場合じゃないぞ。
知りたいなら教えるが、昨日の夕方遅くなってから病院に行った。
お前の入院中は毎日通ったから、なんとなく足が向いたんだ。
小枝さんに会ったのは偶然だが、今思えばあそこで会わなかったらやばかったよ。いろんな意味で」
貴彦は腕組みして、黙って話を聞いていた。
気になるのは先ほどの榊の言葉だった。そんな場合じゃないとはどういうことかと。
「…小枝さんがエレベーターから降りてきた時、もう、前後不覚なぐらい取り乱していた。
そこから連れだして欲しいと言われ、泣きじゃくる彼女を車に乗せた。
彼女は…それから30分は泣き続けたよ」
貴彦は居た堪れないほど打ちのめされていた。
組んだ手を額に押し当て、ギュッと目を瞑る。
「…早いとこ言うべきだったな。彼女にしてみれば、二重のショックだったろう」
貴彦はそのままの態勢で口を開く。
「それで、小枝はなんて?」
「…暫く一人で考えたい、そう言って、俺に伝えて欲しいと頼んだ」
「…考えるって、何を?」
貴彦は事の不穏さを察していた。
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